言語の系統と話者数

アムハラ語は東アフリカにある「エチオピア」という国で話されている、アフロ・アジア語族セム語派に属する言語です。セム語派に属する言語としてはアラブ世界で広く使用されているアラビア語や、イスラエルなどで話されているヘブライ語などと親戚関係にあたります。

話者の数は正確な統計が出ていないので分かりませんが、2007年の国勢調査では母語話者だけでも1500万人以上いるという報告がされています。これは同じセム系言語の中ではアラビア語に次ぐ話者数です。(アラビア語は多くの方言ないし変種があり相互理解が不可能なものも多いので、アムハラ語を各種方言も含めて相互理解可能な単一言語と考えると、実質もっとも話者数が多いと言えるかもしれません。)また母語としてではなくとも、第2、第3言語として使用している人も多くおよそ400万人いるとされています。通用地域はほぼエチオピア国内に限定されるものの、日常的に使っている人の数は非常に多いことが推測されます。

使用状況

アムハラ語はもともと、数あるエチオピアの諸民族のうちの一つ、アムハラ族の言語でした。歴史的にエチオピアの中央集権化を進めていったのがアムハラ族が中心であり、必然的にエチオピアの近代化の過程でアムハラ語が権力のある言語となりました。先述のとおり、現在ではアムハラ語は連邦政府の作業語の一つであり、その影響力は計り知れません。大きな都市ではアムハラ語が出来れば日常生活を送るにあたってはたいていの場合十分です。地方都市でも教育を受けた人であればアムハラ語を比較的流暢にしゃべることが出来ますし、日常の市場やビジネスシーンなどでの違う民族間でのやりとりでは、もっぱらアムハラ語が用いられます。このようなことからアムハラ語はエチオピアにおけるリンガフランカ(地域共通語)としての側面を持っていると言えるでしょう。

エチオピアの「公用語」!?

さて、アムハラ語は「エチオピアの公用語」とされることが多いですが、どうでしょうか。実は現行のエチオピアの憲法には「公用語はアムハラ語です」という規定はありません。その代わりアムハラ語は連邦政府の「作業語」として位置づけられています。「作業語」とは憲法原文でየስራ ቋንቋ(yä-səra qwanqwa)とされています。直訳すれば「仕事の言葉」ということであり、憲法の英語正文では”working language”とされています。

ではこの「作業語」が公用語にあたるのではないか、という疑問が湧きます。この辺りは「公用語」という言葉ををどのように解釈するかが問題となります。公用語とは「法的に地位が認められている言語」ということが一般的でしょうから、この連邦政府の「作業語」を「公用語」とする解釈も全くの間違いとは言えません。

しかし、1955年の改正欽定憲法ではመደበኛ ቋንቋ (mädäbäňňa qwanqwa)、英語では”official language”という表現がされています。このことからすると、やはり現行憲法の「作業語」を厳密な意味での「公用語」とするのは少々無理があります。

というわけで、アムハラ語はエチオピア連邦政府の「作業語」であり、狭い意味での「公用語」ではありません。

ちなみに2020年2月29日、政府議会はアムハラ語に加え、オロモ語、ティグリーニャ語、ソマリ語、アファル語の4言語を連邦政府の作業語として追加することを決定しました。これはオロモ人であるアビィ・アフメド首相主導の政策とされています。私の調査した限りでは憲法の改正は行われていない模様ですが、今後は民族の多様性を考慮した言語政策がなされるものと思われます。

※ちなみに、公用語がない国なんてあるのか、と思うかもしれませんが、日本も「公用語」はありません。日本は基本的に日本語のみが使われているのであえて公用語を定める必要がないのでしょうね。ただし、裁判所法第74条にて「裁判所では、日本語を用いる。」と定めているので、日本語は日本における「事実上の公用語」と考えるべきでしょう。